2011/06/21

かむながらへの旅 第4夜『実存と現象』

子供の頃から宇宙が大好きだった。
星の名前を覚えたり、こども図鑑に載っていた地球の輪郭に憧れたり・・・
高校の時、仲良し5人組で行った慶良間諸島の渡嘉敷島では、ひとりで布団を抜けだして、海岸で星を眺めたりした。
ちょうどペルセウス座流星群の近い頃で、もう居ても立ってもいられなかったのだ。
その日は確か、深夜には月が沈み、ペルセウス座の方位からも明け方前が絶好の時間帯だった。
満点の星空に流れる流れ星。そこには文句なしのくっきりとした星空が広がっていた。
沖縄の星空は、よく見ると動いている星を発見することもあった。人工衛星だ。
やがて東の空がうっすらとオレンジ色に染まり、夜明けが近づく・・・
ふと、そのとき、東の空に妙なものを目撃してしまった。

オレンジ色の光が飛んでいくのだ。見たこともない光が。

しかし、宇宙好きなら当然UFOも大好きであった私は(笑)、あれは単純にUFOでは片付けられないものであることがピンときた。なんだ?あれはっ・・・・腕時計を見た。5時4分を指していた。

家に戻って新聞を見て、答えはすぐにわかった。
その日の朝、5時3分に気象衛星ひまわりが打ち上げられていたのだった。

初めてみた衛星の打ち上げ。それも偶然に。
ものすごい感動だったことを今でも覚えています。


あれ以来、ロケットの打ち上げにも親しみを感じていた私は、のちに1994年頃、TBSニュース23で日本のロケット開発の第一人者、糸川英夫博士のインタビューを見てとりこになりました。
とてもいい取材だった。

糸川博士は占星術や音楽へも造詣が深く、実に好奇心旺盛で、ペンシルロケットに対する少年のような愛情は母性本能さえくすぐられるような可愛さだったのです。
また博士は般若心経と物理学の共通点で著書を持つなど、実にユニークな方だった。

もし占星術が好きな方で糸川英夫博士をご存知なかったら、ちょこっと調べてみてください。
驚きますよ!(^.^)
日本のロケット工学や物理学の第一人者である、あれほどの天才科学者が、30年以上前にホロスコープの作り方から伝授した『細密占星術』を確立しているのですから・・・日本の占星術の師でもあるのです。まじめに占星術の本を書かれているのですよ。ね、勇気づけられるでしょ。(笑)
糸川博士は仕事と遊びの隔たりを持たず、自分の好きな分野にとことん熱中した研究者だったのでしょう。

そんな糸川博士の魅力から、私もH-IIロケットに対して愛着を持っていました。

2002年には、H-IIロケットの後継機による小惑星探査機の打ち上げが予定されていました。
画期的だったこの計画は、残念ながら打ち上げは翌年に延期になりました。

インターネットのおかげで、21世紀は欲しい情報を検索で得るのが当たり前の時代になっていました。自分の好きなテーマに心置きなく没頭できるのです。

私は年を重ねるごとに、研究者だった父との共通点を感じるようになっていました。
ひとりの時間をしっかり作り、集中することはとても神聖なことに思えました。
心のなかに抱いている想像や興味、音楽の感性についても、父の研究となんらかの関連がある気がしていました。

『みるやかなや』の中に『ファネロン』というタイトルの曲を入れ、父の研究対象だったチャールズ・サンダース・パースの哲学と結びつけたのはそのためでした。
ファネロンとはパースが唱えた造語で、実存するものとしないもの、想像や虚空のものまですべてを含めて「現象」ととらえた、中立的な意味合いを持つ言葉です。

私たちミュージシャンは「音」という形のないものを追い求め、「音楽」として昇華させ、レコードだったりライブでそれを表現する。音楽はそれを奏でるミュージシャンの想像の結集であり、楽器という実存でその姿を表す。

芸術がそうであるように、音楽も初めはただ好きで歌ったり楽器を弾いたりしていたものが、社会に出て職業とし、より真剣に向きあうようになるうちにますますその本質が知りたくなり、「想像を表現する」という音楽の奥の深さに感嘆し、哲学するようになるのかもしれない。

哲学の語源、philosophia とは「智を愛する」という意味なのだそうです。


『みるやかなや』の曲創りが始まり、ホルストの『木星』を入れることはあきらめた代わりに、私は先祖を辿るという思いがけない方向に導かれていた。

父はアメリカで学位を取った学者でしたが、石垣島の祖父は文盲だったそうです。
貧しすぎて小学校にも行けない。たった二世代辿っただけで、沖縄はまだそんな時代だったのでした。幼い頃の父をそっと見守り、思う存分勉強に向かわせてくれたのが祖父だったのだそうです。

そんな父が、生涯の研究テーマとなる「パース哲学」と出会ったミシガン州立大学での招聘教授時代に、私は母のお腹の中に宿りました。


                                 つづく・・・